シリアスな話

はじめに

この記事はじゆうちょうアドベントカレンダー25日目の記事です.
今年もまた1回しかブログを更新しなかったので,なんだかアドベントカレンダー専用ブログみたいになってしまっていますね.
せめて来年こそはブログの名前を決めてあげたい.

さて,今年は25日目の記事にちょうど相応しい出来事を先日経験しましたので,そのことについて書こうと思います.
皆さんも知っての通り25日目というのはアドベントカレンダーの一番最後.人体……特に消化管で言うと,この記事はアドベントカレンダーのお尻の辺りに位置しているわけです.
すなわち,あらゆるアドベントカレンダーにおいて25日目の記事に相応しいのはお尻の話題であると言えましょう.

もうお分かりですね.今年のテーマは大腸内視鏡検査です.
お尻の中にカメラが入ったのでお尻の中にカメラが入った話をします.

すべての始まり

すべての始まりは昨年の人間ドックでした.
これまで人間ドックに行ったことはありませんでしたが,私もそろそろいわゆる "いい歳",ここらで一度人間ドックなるものに行っておくのが良かろうと思ったわけなのです.
"いい歳" になると職場からの補助で実質無料で検査を受けられるからというセコい計算も多分にありましたが,まぁ無料で行けるのは良いことです.

結果,基本的には健康だったのですが,便潜血の検査で2回中1回陽性という判定が出ました(身に覚えあり).
「身に覚えあり」というのは,検査用の "サンプル" を採取する前日, 提出に使用しない "サンプル" を体内から排出する際にお尻にやや痛みが走ったという記憶があったのでした.
みなさんも身に覚えがあるかもしれませんが,何らかの理由により "サンプル" が尻穴強度の限界を超えて堅いとき,人のお尻は悲しみの赤い涙を流すとされています.
便潜血の検査は,この "悲しみの涙" を腸内からの出血として誤って拾ってしまうことがあるらしい…という(浅い)予備知識があったので,今回の陽性はそのようなものであろうと考えていました.

というわけで「どうせ痔でしょう」と思っていたためにモチベーションが上がらなかったのと,昨年の冬は例年になく忙しかったのとで,特に何も対応をすることもなく半年放置していました(一応,落ち着いたら検査に行こうとは思っていました*1).

半年経ってようやく人間ドックの結果を見た産業医に呼び出されて "面談" をされたので,覚悟を決めて精密検査を受けることにしました.
より正確には産業医に紹介状を貰って消化器内科を受診し,そこで「まぁ,下から入れてみるしかないので,下から入れてみましょう」と言われる約束された展開を経験してきました.

キレイな身体になるための準備

検査は最初の診察から数週間後に行われることになりました.
大腸内視鏡検査はキレイな身体で……具体的には腸内を空っぽにして受ける必要があるので,検査の前夜から食事制限と下剤の服薬を課されます.
前日の夕食では「海藻,キノコ,種ごと食べるもの(ゴマ,キウイフルーツ等),こんにゃく」が禁止食材として指定され,20時までに食べ終えるべしとされていました.

そして22時に最初の下剤を投入します.
自慢じゃありませんが,これまで私は人生において下剤というものを飲んだことがなかったので,自分の肉体が下剤を飲んだときにどのような反応を示すのか未知でした.
「寝る前に下剤なんか投入したら深夜に大変な惨事になるのでは…?」という若干の不安はありましたが,まぁ効きが緩やかなものが処方されているのだろうと信じて指示通りの時間に飲みました(実際,深夜に腹痛で目覚めたりすることはなかったです).

キレイな身体になるための本当の準備

前日就寝前の下剤に加え,検査当日の朝は6時から "本番の下剤(腸管洗浄液)" を飲み始めます.この下剤こそが,今回の大腸内視鏡検査最大の山場でした*2
具体的には2時間かけて2リットルの下剤を飲み干します.

2時間で2リットル,ビールであれば余裕の量ですが下剤であれば話は別です.
2リットルのビールは単なる美味しい液体でしかありませんが,この下剤は「腸で吸収されない液体を大量に飲んで腸の中身をまとめて全部押し出す」みたいなコンセプト(たぶん)なので,味が極めて微妙です.
頑張って喩えると「熱中症で死にそうなときに飲むと美味しく感じそうな味」でした(伝われ).

賢明なる読者諸氏は既に察していることと思われますが,2時間かけて2リットルの下剤を飲み干すということは 2時間強かけて2リットルの下剤+最初から入っていた中身を全部お尻から出すということです.
キッチン・PCの前・トイレという3点の間をぐるぐる回りながら,一定ペースでコップ1杯の下剤を飲み・twitter を眺め・腸の中身を排出し続けます.
この1ループのサイクルは10分程度ですので,それ以外のことは何も出来ません.
ここで急な来客などあった日には居留守を使うしかありませんが,客人も頻繁に聞こえてくる水洗トイレの洗浄音に何かを察してそっと帰っていただけることでありましょう.

とまれかくまれ,2時間強をかけて私はキレイな身体に生まれ変わりました.
ノリとしては悪名高い「池の水全部抜いてみた」を自分の肉体でやるみたいな感じですね.
いわゆる「腸の中全部抜いてみた」というやつです.出てきた中身をチェックしながら進めるところもたぶん一緒でありましょう.

2時間強の激闘を終え最後のトイレのドアを開けて出てきたのは,おそらくは生まれたとき以来のキレイな身体の私
いまこの状態でビールを流し込んだらこれまでになく純度の高い飲酒ができるはずです.
しかし,ここで誘惑に負けてビールを飲んでしまうともう一度下剤を飲むところからになりかねないので,ぐっと我慢して通院の時間を待ちます.

病院へ行き,そして…

空腹のまま待ちに待った通院の時間.しかし病院に着いたあとも待合室で待ちに待つことになります.まぁ,病院というのはそういうものなので,これは仕方のないことでありましょう.

待ってる間は特にやることもないので他の被験者を眺めていましたが,自分以外はやっぱりご高齢の方々が多いな〜という印象でした.そしてご高齢の方々は「下剤を全部飲めませんでした」という申告をしている割合が結構高かったです.
私は日頃から2リットル以上の液体を(飲み会で)常飲していたので耐えられましたが,そういう特殊な訓練を受けていない場合は,やはり2リットルの液体を延々と飲むというのは大変なことなのかもしれません.
次に同じ検査を受けるのがいつになるのかは分かりませんが,そのときに自分が2リットルを飲み干せる状態のままなのかな…?ということを考えて少し寂しい気分になりました.
老いても常在戦場の心構えは持ち続けたいものですね(…?).

なんだかんだで合計1時間強ほど待ったあとで診察室への移動を促されました.
その際,(1) 検査着に着替え, (2) 汚れちゃうことがあるので靴下は脱いできて, (3) スリッパとかは特にないので検査台まで自分の靴をそのまま履いてきてください,という指示を受けました.

靴下が汚れちゃう状態の足は再度自分の靴を履くとき(=検査台を降りるとき)までにキレイな状態に戻してもらえるのか…?という若干の疑問を抱きつつも,被験体であるところの私に拒否権はない(たぶん)ので,スタッフの方々を信じて粛々と指示に従います.

いざ穴ぐら

いよいよ検査台の上に横たわり,気分はまさにまな板の上の鯉です.
人間ドックで胃カメラの検査を受けたときも似たような気分になりましたが,そのときに比べても30倍くらいは鯉度が高かったです.もう…好きにしていいよ…///

検査中は(被験者の苦痛を取り除き,不意の暴走を抑えるために?)鎮静剤を点滴することになっていましたので,お尻にカメラを入れる前にまずは腕に針を入れます.
針を刺してくれた看護師さんに「痛くないですよね?」と訊かれたので,反射的に「どのレベルでですか?」と訊き返してしまったのですが「痛くないですね」と返されて終わりました.
針を刺されて全く痛くないわけもないじゃないですか…?という私の気持ちはそっとなかったことにされましたが,多忙を極める医療の現場においてはこれもまた致し方のないことでありましょう.

ファーストインパク

「カメラを入れる前にまず触診をしますね〜」という先生の声の直後に "ズドン" という衝撃が私の身体を貫きました.最初の一撃,そんな速度で入ってくるんだ?!
ズドンの後に続いてグリグリされていたような気がしますが,ズドンのズドン具合が気になってズドン以外の印象があまり残っていません.

というか鎮静剤あんまり効いてなくないですか…?(主観的には)
点滴は続いているはずなので鎮静剤も投入され続けていたと思うのですが,この後も検査終了までずっと意識がハッキリしていたような気がします(主観的には).

とはいえ「意識がハッキリしていた」という自己認識の信頼度はさほど高くはないとも思っています.酔ってる人の「酔っていない」という自己認識ほど信用のできないものはこの世に存在しないですからね.

冷静と情熱のあいだ

ズドンとグリグリの後はカメラが入っていったのですが,当日の日記には「温かい感触と冷たい感触の両方があった」書き残されていました.
しかし今となってはこれが何のことだったのかは不明です(もっと検査直後に詳しい記録を書いておけば良かった).
入口*3付近に温かいものがぬるぬると入っていく感覚がありつつ,何かヒヤリとした感覚を受けるタイミングが何度かあったという朧気な記憶があるのですが,この冷たい感触って何のことだったんでしょうね?
あるいは入れるときは温かく感じて出るときには冷たく感じたのかもしれません*4
次の機会があったらこの点に集中して検証してみたいと思います.

最初の触診こそインパクトがありましたが,カメラの方はスルスルかつヌルヌルと穏やかに,奥へ奥へと入っていきます.当日の日記を見ると
「あ,そんな奥まで入るんすね(ある種の感動)」
「あ,あ,そんなにぐいぐい動かして大丈夫なんすか,あ,あ,あ,あ」
「な,中で何か流してません?*5
という心の声が書き残されていました.
腸内(しかも奥の方)にカメラが入っていくときって,案外感触?感覚?で分かるものなんだなぁという印象です.

そしてクライマックスへ

カメラは順調に進み続け,体内を左側から右側へと移動していき,ついには大腸最奥地まで到達しました.本当にそんな奥まで入れちゃうんですね.
このような深いところまで人体を安全に蹂躙する術が存在しているなんて,人類の技術の高さには感服せざるを得ません.

欲を言うなら,近い将来には更に長く・更に細く・更に柔軟なカメラが開発されて小腸まで行けるようになっていて欲しいですね.
いえ,むしろ最終的には消化管を上から下まで駆け抜けるという "ひとつなぎの大秘宝 (ワンピース)" にたどり着いて欲しいです.口から入れて尻から出す,これぞ人類の夢の究極の到達点と言えましょう.絵面的にはわりと拷問っぽいですが.

ちなみに,検査室には(おそらくは)被験者がリラックス出来るようにという気持ちを込めてクラシック音楽が流れていたのですが,ちょうど検査も佳境に入った頃に曲目が急にトルコ行進曲に変わりました.
「検査室で流すにしてはアップテンポが過ぎません?」という気持ちはありつつも,大腸の一番奥の辺りまで異物が入ってる状態でノリノリな音楽を聴くという貴重な経験に感謝したいと思います.

人生で最も純度の高い飲酒

鎮静剤を入れていた関係で,検査結果の発表は当日には行われないことになっていましたので,検査終了後はベッドで少し休んでそのまま帰宅です.
まだ結果が分かっていないので完全にスッキリしたわけではありませんが,検査自体は思っていた以上に苦痛もなくスムーズに終わり,気分はそれなりに晴れやかです.
そして朝から腸内が空っぽの状態で,時刻は既に15時過ぎ,天候も晴れ,喉は渇いた,今日はもう仕事をする気も起きないぜ…!
というわけで,病院から帰宅して荷物を置いたあとは座る暇もなくお店の方角に駆け出してピカピカのまっさらな胃腸にビールを流し込みました.

ああ,これが人生で最も純度の高いビールの味!
大腸内視鏡検査を乗り越えた者*6だけに許された至福のひとときです.
なお,今回は幸いにも大丈夫でしたが生検等を行った場合は直後に飲酒しちゃダメな気がするので気をつけてくださいね(それはそう).

おわりに: 結果と今後の課題

結果発表は2週間後くらいに行われましたが,特に盛り上がりもなくあっさり終わったので割愛します*7.受診の際に「せっかくなので写真をください」と言ってみたら医師にちょっと笑われましたがちゃんと印刷してくれました*8
せっかくなのでその写真をここにも掲載したかったのですが,人類に反旗を翻した AI にえっちな写真だと判定されて何かしらの規制に引っかかったら悲しいのでやめておきます.
どうしても私の大腸を見てみたいという人は後でこっそり個人的に声をかけてください.

それではまた来年のこのくらいの時期にみなさんとお会いできるの信じて,そろそろ筆を置きたいと思います.
みなさん良いクリスマスと年末年始をお過ごしください.

*1:言うまでもないことですが,検査で引っかかったのに放置したら検査をする意味がありません.この記事を読まれた賢明なる諸氏は,お尻注意報が出たら直ちに消化器内科に駆け込んでパンツを下ろすようにしましょう

*2:大腸内視鏡検査はまだ始まっていない

*3:個人的には入口ではないのだが今日この瞬間においては入口である

*4:直感的にはなんとなく逆のような気もするけど,少なくとも入るときに冷たく感じた記憶はない

*5:後から思うと腸内に微妙に残っていた白菜の洗浄を試みられている場面だったようだ

*6:というか下剤を乗り越えた者

*7:たぶん痔だったってことだよ.言わせんな恥ずかしい

*8:「せっかくですからね」のお言葉と共に